夢の欠片
「えっ……?

今、ひなって呼んでなかった?」


隣で萌ちゃんが気づいて私に問いかける。


黙っていると、何かを察したように彼女は言った。


「もしかして……

ひなが会いたかった人なの?」


それはさっきまでの明るい声とは違う悲しみに溢れた声だった。


「萌ちゃん……ごめん」


絞り出すようにそう言うと、彼女は瞳を揺らしながら、唇を噛み締める。


「そっか……うん……仕方ないよね?

まさか同じ人だったなんてね?

あはっ……ひなの大切な人にちょっかい出しちゃうとこだったよ……




ひな……ごめん
今日は帰ってくれる?」


「わかった……」


私の返事を聞いた瞬間に、萌ちゃんは走り出して自分の家の中に入っていった。


私はそれを見送ってから、視線を上に移して翔吾を見る。


「やっぱりひなだ!久しぶりだなぁ

もしかして高校生になったんか?」


たった今、失ったかもしれない友達を思いながら、それを隠して必死に笑顔を作る。


「うん、翔吾のおかげで高校生になれたよ?

どう?本物の女子高生を見た感想は?」


「似合ってる

そっかぁ、高校生になったか

あのひながなぁ」


日焼けした顔がにっこりと笑って私を見る。


その笑顔が眩し過ぎて、私の胸はチクッと傷んだ。


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