夢の欠片
「お前がお袋さんのことでいろいろあった時に、そういうこと気持ち悪いって言ってたろ?

だから俺が男の顔になったら、ひなが怖がるんじゃないかって思ってたんだ

ひながもっと大人になるまで待とうって思った

美樹のこともあったし……

そういう男の欲望みたいなものを見せるのが、俺自身怖かったのかもしれないけど……」


私の……ため?


翔吾がこんなにも私を大切に思ってくれてたなんて……


知らなかった……


嬉しくていつの間にか涙で布団を濡らしてしまう。


「翔吾ぉ……好き……」


頭で考えるより先に口に出していた。


好きな気持ちを素直に伝えたかったから……


「知ってる」


思いがけない言葉に、私は思わず振り向いて翔吾の顔を見た。


翔吾は優しく笑ってもう一度その言葉を繰り返す。


「知ってるよ、ひなが俺のこと大好きだってことくらい

ひなの俺を見る目を見ればわかる」


翔吾はフッと笑いながら私に顔を寄せると、今度はさっきとは違う優しい触れるだけのキスをした。


「悪いけど、一度開けたパンドラの箱は元には戻らないから

俺もいい加減、優しいお兄ちゃんを演じるのはもう止める」


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