夢の欠片
ある日……家に帰ると見慣れない男が居間に座っていた。
この時間には珍しく母親も帰ってきており、男の傍らに寄り添っている。
「お帰りなさい、ひなちゃん
あのね?こちら、伊丹さん
仕事でとてもお世話になってるの……」
母はそう言って、私に目で挨拶をするように促した。
チラッとその男性を一瞥すると、向こうも舐めるような目付きで私を見てくる。
ゾクッとして私はすぐにその男から目を反らした。
何も言わないまま立ち尽くしている私に、母は続けて話し出す。
「あのね?
ひなちゃん……お母さんね?」
言いづらそうに口ごもりながら、次の瞬間には私が最も恐れていたことを口にする。
「……伊丹さんからプロポーズされてるの」
またか……
しかもこの男と?
私は一気に絶望的になり、何も言わぬまま二人の視線を振り切って、自分の部屋に向かった。