夢の欠片
「はぁ?なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないんだよ!」


声を荒げてそう叫ぶと、伊丹の横をすり抜けて玄関に向かおうとした。


その時――


脇腹をグッと自分に引き寄せるようにしながら、伊丹が私の体を右手で押さえる。


その瞬間、虫酸が走り体が震えた。


思いっきり突き飛ばすと、壁に勢いよくぶつかって、ぶよぶよした伊丹の体が揺れた。


「キモいんだよ!触んな!!」


狭い廊下を伊丹から極力体を離しながら、私は急いで家を飛び出す。


後ろで母が何か叫んでいたが、立ち止まる気も、戻る気もなかった。


気持ち悪い……
気持ち悪い……
気持ち悪い……


伊丹に触られたお腹の辺りにさっきの感触がまだ残っている。


お母さんもお母さんだ。


なんであんなやつに私のこと話してんだよ!!


そう思うと悔しくて涙が出そうになった。


< 36 / 289 >

この作品をシェア

pagetop