夢の欠片
「ひな?ご飯……持ってきたわよ?」


襖の向こうから遠慮がちにかけられた母の声。


私は襖をスッと開けて、お盆に乗せられた食事を受け取る。


母はそんな私の顔を見て、複雑な顔をしながら言った。


「ひな……まだ伊丹さんと食事する気にならない?
彼も一応、気にしてるのよ?

もうすぐ籍も入れるつもりだし、ひなにもなついてもらいたいって……言ってくれてるの

ひなは……反対なわけじゃないわよね?」


反対に決まってる。


それなのにそうじゃないって思える根拠は何なんだろう?


「別に……お母さんが結婚するってだけで、私には関係ないから……」


私が拗ねてるとでも思ったんだろうか?


母は私を宥めるように、有り得ないことを口にした。


「伊丹さんね?

籍を入れたら、私に家に入ってもらいたいって……

生活の事は全部面倒見るから、ひなのためにも家にいてあげてくれって言ってくれてるのよ?」


伊丹がいかに私達親子の事を考えてくれているのか。


恩着せがましくそれを私に伝えてくるのは、暗に伊丹と結婚するのは私のためとでも言いたいんだろうか?


だから、反対するわけないわよね?と。


言葉とは裏腹に女の顔をして嬉しそうに笑う母は、私には騙されてるようにしか見えなかった。



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