夢の欠片
学校から帰ると、当初の計画通り家を出るつもりで、何気ないふりをして母に声をかけた。
「お母さん……あのね?
これから中学の友達と遊びに行く約束してるんだけど、行ってきてもいいかな?」
少しおずおずと、上目遣いでねだるようにそう言うと、母は嬉しそうに答える。
「ひな……友達出来たのね?
良かったぁ、心配してたのよ?
明日から夏休みなんだし、楽しんでらっしゃい!
少しぐらい遅くなっても構わないからね?」
今まで中学の友達の話なんかしなかった私に、友達が出来たことがよっぽど嬉しかったんだろう。
散々禁止していた夜遊びも、いとも簡単に許してくれた。
ずっといい子のふりをしてきた甲斐があった。
すっかり信用して、目の前で馬鹿みたいにはしゃぐ母の姿を見ながら、そう思う。
「ありがとう!お母さん!
じゃあ行ってくるね?」
最後にとびっきりの笑顔を見せて手を振ると、母も嬉しそうに手を振り返してくる。
しばらくバイバイ……お母さん……
心の中ではそんな風に思いながら。