夢の欠片



学校から帰ると、当初の計画通り家を出るつもりで、何気ないふりをして母に声をかけた。


「お母さん……あのね?

これから中学の友達と遊びに行く約束してるんだけど、行ってきてもいいかな?」


少しおずおずと、上目遣いでねだるようにそう言うと、母は嬉しそうに答える。


「ひな……友達出来たのね?

良かったぁ、心配してたのよ?

明日から夏休みなんだし、楽しんでらっしゃい!
少しぐらい遅くなっても構わないからね?」


今まで中学の友達の話なんかしなかった私に、友達が出来たことがよっぽど嬉しかったんだろう。


散々禁止していた夜遊びも、いとも簡単に許してくれた。


ずっといい子のふりをしてきた甲斐があった。


すっかり信用して、目の前で馬鹿みたいにはしゃぐ母の姿を見ながら、そう思う。


「ありがとう!お母さん!
じゃあ行ってくるね?」


最後にとびっきりの笑顔を見せて手を振ると、母も嬉しそうに手を振り返してくる。


しばらくバイバイ……お母さん……


心の中ではそんな風に思いながら。


< 64 / 289 >

この作品をシェア

pagetop