夢の欠片
そんな私をしばらく険しい顔のまま見つめていた翔吾は、やがてふぅ……と大きく息を吐いて、仕方がないというようにゆっくりと近づいてきた。


それから今度は前みたいな優しい声で話しかけてくる。


「ごめん……悪かったよ……

でもお前がまた戻ってくるとは思わなかったんだ……」


そう言いながら、私の頭を壊れ物を扱うかのように、優しく何度も何度も撫でてくれた。


さっきまで我慢していた涙が、翔吾が優しくしてくれたことで一気に流れ出してしまう。


嗚咽にも近い泣き方に、翔吾は黙って私が落ち着くまで、自分の胸に私を納めてくれた。


どのくらい時間が立ったんだろう?


ようやく落ち着きを取り戻すと、私はゆっくりと顔を上げて翔吾の顔を見た。


翔吾の胸で泣かせてもらうのは、これで2度目だ。


1度目は絡まれてるところを助けてもらった時。


それが翔吾との初めての出会いだったっけ。


そんなことをぼんやりと考えていると、翔吾は悲しそうな目で私の目を見つめ返した。



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