夢の欠片
急に黙ってしまった私を心配するように、翔吾の手が私の頭をそっと撫でる。


私は少しだけ安心して、翔吾の方に顔を向けた。


窓からの月明かりでぼんやりと翔吾の顔が見える。


その表情はうっとりするほど甘く、そして優しかった。


私はそんな翔吾の顔がこんなに近くで自分を見つめていることにドキッとする。


そんな私を煽るように、髪を撫でていた翔吾の手がそっと私の頬に触れた。


ビクッとしながらも、心地よい翔吾の手の感触にそのまま身を任せる。


もしかしたら……


このまま翔吾に初めてを捧げちゃうのかな?


でも翔吾にならあげてもいいかもしれない。


少しぼーっとしながら、どんどん熱くなる自分の身体に戸惑いながら、そんなことを考える。


すると翔吾が優しく私の頬に触れながら、ゆっくりと言った。


「無理、しなくていいんだぞ?

言いたくないなら言わなくていいから……

辛い過去を話すのは、誰だって嫌なもんなんだからさ」


そう言ってまた髪を撫でて、悲しそうな瞳で私を見た。


< 89 / 289 >

この作品をシェア

pagetop