夢の欠片
身支度を整えると、父の住所が書かれた手紙も忘れないように鞄に入れた。


それから預かった合鍵で玄関を閉めると、父を探しに出発する。


住所を見ると、そう遠くない場所に父の家はあった。


駅に向かって歩いていると、私と同じくらいの女の子達が、私服でキャッキャッとはしゃぎながら群れをなしているのが見えた。


そっか、夏休みだからみんなどっかに遊びに行くんだな……


同じ中学生だというのに、駅に向かう目的が全く違うことに苦笑した。


普通ならこんな風に可愛く着飾って、友達と遊んでいたのかもしれないな……と思う。


今の自分が少しだけ惨めになったものの、翔吾を思うとそれもたいしたことじゃないと思えた。


普通の中学生だったら翔吾にも会えなかったし、逆に他の子には出来ない経験が出来てる。


それは辛いこともたくさんあるけれど、私にとって大事な経験でもあった。


この世に生まれてくるということは、修行のためなんだって聞いたことがある。


だったら私はたくさんの修行を経て、何かを得るのかもしれない。


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