夢の欠片
電車に乗って三駅ほど行った所に、父の住んでいるであろうマンションはあった。


かつては私もそこに住んでいた記憶がある。


あれから何年も経っているからわかるかどうか不安だったけれど、意外にも目の前には懐かしいと思える景色が広がった。


この坂道を登ってすぐの道を右に曲がると、確か焦げ茶色のそんなに高くない背丈のマンションがあるはずだ。


自分の記憶を辿りながら、坂道を登っていく。


ようやく坂道の終わりに差し掛かり右に曲がると、思った通りそこには焦げ茶色のこじんまりしたマンションが建っていた。


ここだ……


住所には403と書かれている。


てことは4階か……


ドキドキする心臓を抑えるために大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。


そしてゆっくりと建物の中に入ると、エレベーターに乗り込み4階のボタンを押す。


ゴクリ……


4階に到着して403号室の前に辿り着くと、思わず生唾を飲み込んだ。


表札をそっと見上げる。


そこには中田と書かれていた。


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