夢の欠片
お父さんだ……


その表札を見て、そう確信する。


中田は自分が小学校低学年の頃に名乗っていた名字でもあった。


玄関のチャイムを押そうとして、一瞬……躊躇する。


別れて何年も経つのに、娘に訪ねてこられて迷惑じゃないだろうか?


ここまで自分のことしか考えずに来てしまったけれど、相手側にも都合があるかもしれないと急に不安になった。


どうしよう……


たぶん、探し始めた初日から、トントン拍子に実の父親の居場所を突き止めることが出来て戸惑っているのかもしれない。


出直そうか……?


そう思ってクルリと向きを変えると、またエレベーターの方に向かって歩き始める。


その時、ガチャッと玄関の扉が開く音がした。


――えっ!?


驚いてゆっくり振り向くと、そこには少し白髪混じりの見覚えのある顔があった。


自分と暮らしていたときよりもちょっぴり老けた印象だったけれど、紛れもなくその顔は父に間違いなかった。


あまりに突然のことに何も言えずに固まっていると、父が不思議そうに私を見る。



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