昔の風
「ところで、料理はちゃんとできるのか?」

「痛いところ突かないでくださいよ」

「大事なことだろう」

「彼のお母さんに教えてもらってるんです」

「そうか。お前は頑張り屋だからな。でも、たまには息抜きしないと駄目だぞ」

「たまにじゃなくていつもしてます」そう言って、森山は笑う。

「堅実な奴を選んだな。原口よりずっといい」

「原口?」

「付き合ってたんじゃないのか」

「まさか!まぁ、誘われはしましたけど」

「一時期落ち込んでた頃があったろ。原口のせいかと思ってた」

「……」

「原口のせいじゃなかったか」

「金子さん」

「ん?」

「私、この店で女の人といる金子さんを見たことがあるの」

 森山の顔を見た。まさか。森山があの時を見ていたというのか。勘違いじゃないのかと誤魔化したいが、口が動かないでいる。
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