失恋珈琲
会話は波のように空気を伝わる。


店内いっぱいに波がゆったりと押し寄せて、満ちていた。


その波が、一人のお客さまがドアを開けたとたんに、しんと引いた。


店内に入ってきたのは、夕暮れの彼だった。


雨に降られた夕暮れの彼は、髪がしっとりと濡れていた。


ジャケットを脱ぎ、片手に持つ。
髪をさり気なく整える。


まただ。
また、あたしは彼のその振る舞いに目を奪われる。
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