失恋珈琲
窓際のテーブル席に着いた彼に、タオルを手渡す。


雨の日に来店してくださるお客さまに、いつもしているサービスだ。


「ありがとう」


初めて聞いた、彼の声。

とたんに、私の心の中に温かなものが溢れてきた。


深入りの珈琲を淹れたときのような、芳醇で豊かな、幸せな感情。


ああ、やっぱり間違いなかった。
立ち居振舞いは、その人の内側から出てくるものなのだ。


珈琲を運ぶときも、お会計のときも、ドキドキと高鳴る胸を押さえることに苦心した。
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