紅蓮の鬼外伝


暫くりんが泣いた後、彼女は静かに言い出す。


「私の字です」


そして彼女は俺から離れて地面に〝淋〟と書いた。


「私は淋しいのです」


そう言い洟をすすった。


「俺は空っぽの木だけど」


俺らの名前は何故か花や木の名前が多い。


ユキ兄は花の名前でもなんでもないけど。


「でも卯の花は綺麗で花言葉もあります。私には滴り落ちることとさびしさしかない」


やっと泣き止んだのに、また泣きそうな、悔しそうな声で言う。


まるで、自分には悲しい言葉しかないのだというように。


だけど、卯の花と空木の花言葉なんて『謙遜』。


俺を表した言葉じゃない。


「じゃぁ、滴り落ちるのなら俺が受け止めてあげる」


これの言葉に、不意に彼女が顔を上げた。


彼女の目はまだ赤くて、いつの間にかまた涙が溜まっていた。


「さびしいのなら俺が傍に居てあげる」


だってさ、俺らは兄妹のようなものでしょ?


俺がそう付け足すと、彼女は再び俺の胸に飛び込んできた。


今まで泣かずに頑張ってきたんだ。


今日くらい我慢しなくてもいいじゃない。


「俺ってさ、ずっとボーっとしてたんだよね。だから『空っぽの木』で『空木』なんだよ」


俺の腕の中にいる小さな彼女が、大きくしゃくりあげた。


「漢字なんて書かないと見えないから当て字で良いじゃん」


わんわん泣いている淋を俺は宥めながら、そう自分にも言い聞かせた。


この字なんて当て字。


気にする必要はない。


そう、自分に言い聞かせた。

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