紅蓮の鬼外伝
日が暮れる前に泣き疲れて寝ている淋をおんぶして戻ると、家の前に黒い羽織を着ているユキ兄と知らない男が立ち話をしていた。
男は黒紅の着流しで優しそうな顔つきだった。
そして、赤い紐で肩甲骨辺りまである黒い髪を一つに首の付け根あたりで結んでいる。
だけど少し疲れた顔をしていた。
「お、おかえり。空木」
俺の視線に気付いたのか、ユキ兄がそう言ってわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。
「……っと淋は寝てんのか」
そして俺の背中にいる淋を見て少し困った顔をした。
「……ただいま」
「どうした?空木。なんか元気ねぇ」
「……名前の漢字って気にすることないよね?」
俺はユキ兄と目を逸らして少し逡巡した挙句、彼に言った。
それを聞いたユキ兄はキョトンとした表情を見せ、優しい顔つきになった。
「!」
俺は反射的に戦う態勢をとる。
「ちょ、なんでそんな態勢とってんだ。しかも淋おんぶしたまま」
ユキ兄は半目になって不満を口にする。
「い、いや…なんでかは分かんないんだけど本能的に?」
「日頃なにしてんだよ、お前」
ユキ兄の隣にいる男が笑いながら言った。
「うっせ。あ、空木」
ユキ兄が何か思いついたように俺を見る。
「名前の漢字なんて気にするこたぁねぇよ」
彼はそう言ってニィッと笑う。
「コイツは畳の原料だから」
「は?」