モカブラウンの鍵【完結】
「どうぞ。熱いんで気をつけてください」

「ありがとう」


佐伯さんはマグカップを受け取ると、ミルクと砂糖を入れゆっくりかき混ぜる。

手を温めるようにカップを包み込む。


「温かい」

「眠れませんか?」

「うん。元カレのこと考えちゃって。なんであんなに好きだったんだろうって」


まだ、あの男のことが好きなのだろうか。

佐伯さんの涙の理由は、あの男……。


「なんだかいろいろ考えちゃうのよね」

「あの、俺、聞きます。なんでも聞きます」

「杉山」

「誰かに話すことで整理できることもあるし、答えが出る場合もありますから」


マグカップを置いた佐伯さんが俺の顔をじっと見る。


「誰かの相談に乗るって、その人の悩みや持っているものを一部背負うことになるのよ。それにマイナスの感情をもらってしまう。私、よく人の相談に乗るからわかる。杉山にそういうもの」

< 108 / 300 >

この作品をシェア

pagetop