モカブラウンの鍵【完結】
「ありがとう。私、今日1日で、杉山に何回ありがとうって言ってるんだろう。でも、ありがとうしか言えないのよね」


少しは佐伯さんの役に立てているならいいか。

家族が寝静まった深夜、ソファに座って人と話すと母親のことを思い出すな。


「杉山? どうかした?」

「なにがですか?」

「今、遠い目をしてたから」

「なんでもないです。昔のこと思い出しただけですから」

「昔のこと?」

「母親のことです。小さい頃、寝付けないとき、こうやってソファに座って絵本を読んでもらったなと思って」

「そう。杉山と宏実さんの感じだと、ご両親はとても優しい人なんじゃない?」

「まあ、優しいですね。特に母親は。体が弱くて、入退院を繰り返していたけれど、どんなときも優しい人でした。自分の体を1番に考えればいいのに、いつも家族のことばかりで。

入院中も『ご飯はちゃんと食べてる?』『夜ふかししてない?』『学校はどう?』とか言ってました」

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