モカブラウンの鍵【完結】
「へえ、いいお母さんね」

「だから母親が死んだときは結構きつかったな」


そう言うと、佐伯さんの息を呑む音が聞こえた。


「あ、すみません。寝る前にこんなこと言って」

「ううん。私の話のせいで、ああ、ごめん」

「いや、佐伯さんが謝ることじゃないし、母親が死んだのは中学の時なんで、もう自分の中でも整理ついていますから。それに話し出したのは俺ですから」と、まくし立てるように言った。


佐伯さんはずっと持っていたマグカップをテーブルに置く。

その手が俺の方へゆっくり伸びてきた。

なにが起こるんだかよくわからなくて、佐伯さんの顔を見つめる。

佐伯さんの手が肩から背中に周り、視界はクリーム色のストールだけになった。

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