モカブラウンの鍵【完結】
「よく頑張りました。中学生のときからお父さんやお姉さんのために家事をやって。時にはやりたいこと、我慢したときもあったでしょ。偉かったね」


なんで抱きしめてくれるんだろう。

なんで褒めてくれるんだろう。


ああ、こうやって誰かに仕事とか勉強とかじゃなく、自分のしてきたことを認めてもらったのは初めてかもしれない。

別に家族にお礼を言われたいとは思わない。

父さんや姉ちゃんが俺を大事にしてくれているのはわかってるし。

でも、生活する上で当たり前にやることを誰かに認めてもらったり、褒めてもらったりするっていいもんなんだな。


佐伯さんの右手は俺の背中を優しく摩り、左手は頭を撫でていた。

そしてストールからは甘いりんごの香りがする。

リビングは静かな時間が流れていた。

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