モカブラウンの鍵【完結】
「佐伯さん、準備できましたか?」

「うん」

玄関へ行くと、俺には絶対してくれない見送りをする姉ちゃんの姿があった。

「宏実さん、いろいろありがとうございました」

「ううん。私はすごく楽しかったよ。今度、2人でエステ行こうね。メールするから」

「はい。じゃあ、失礼します」

「うん。バイバイ」


姉ちゃんは佐伯さんにだけ手を振っていた。

俺は無視かよ。別にいいけど。


「帰るときは、戸締りとガスの元栓は確認といて」

「わかってるわよ」と姉ちゃんは面倒くさそうに答えた。

佐伯さんと俺の扱いの差が激しいんだけど。

「じゃあ、いってくるから」と言って、佐伯さんと一緒に家を出た。



エレベータで地下駐車場へ降りる。

車に乗り込み、どこへ行きたいかを聞いた。


「不動産屋に行きたいの」

「引っ越しするんですか?」

「うん。部屋も手狭になったし、心機一転ってところかな」


シートベルを締める佐伯さんを見て思った。

あんなことがあった部屋に住み続けるのはきついんだろう。


「わかりました。どこの不動産屋でもいいですか?」

「うん。杉山にお任せする」

「はい」

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