モカブラウンの鍵【完結】
――ヴヴヴヴヴヴヴヴ
助手席の方からスマホのマナー音が聞こえた。
佐伯さんはカバンからスマホを取り出すと、画面をじっと見ていた。
「出ないんですか?」
「元カレから」
その一言で車の中が静かになる。無駄に響くマナー音が途切れた。
「あ、切れた」
数秒すると、短いマナー音がなる。
多分、メールが受信されたんだろう。
横で、画面に爪が当たる音がする。
「元カレが会って話がしたいって」
そんな内容だろうとは予想できても、佐伯さんがどうするかはわからない。
「杉山、私……」
「会って話しをしたいなら、そうするべきです。まだ会えないと思うなら会わなければいいと思います。ただ、時間を置けば置くほど会うことから逃げてしまうこともあります。逆に、時間を置いたからこそ冷静に話せることもあります。これはその人の考え方や性格だから、佐伯さんがどう考えるのか自由ですよ。ただし、会うなら俺も一緒に行きます。会うのが今日じゃなくても」
「私、会う」と、佐伯さんは小さな声で言った。