モカブラウンの鍵【完結】

――カチカチ、カチカチ


あの男に送る最後になるはずのメール。なんて返信したんだろう。

爪が画面に当たる音を聞きながら、適当に車を走らせる。

目的地はあるのにない状況。


これから佐伯さんを元カレの所へ連れて行く。

小さな不安が広がる。

また、暴力を振るわないだろうか。

向こうが別れを受け入れてくれるのだろうか。

家を出たときは奇麗な青空だったのに、今は灰色の雲が浮かんでいた。


「杉山、私のアパートの近くにカフェがあるの。近くに来たらナビするから、とりあえず私のアパートの方に行ってくれる?」

「はい、わかりました」


佐伯さんに言われたとおり、アパートへ向う。

アパートの前に来ると、佐伯さんのナビに従って車を走らせる。

5分くらい走らせると、レンガ造り風のカフェが見えてきた。

三角屋根の上には風見鶏が乗っている。

少し風が出てきているみたいで、鳥の下にある矢印をかたどった棒がふらふらと左右に弱く揺れていた。

3台しか停められない駐車所には、車が1台停まっていた。

その車の隣に車を停める。

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