モカブラウンの鍵【完結】
店内の中で窓側とは反対の方向へ進み、2人の姿が全く見えない席に座る。

内心は少しでも見える席に座りたかった。

でも、佐伯さんが「待っていいよ」と言ったときの表情は、決意のようなものが見えた。

自分でけじめをつけたいんだろう。

その意志を尊重して、ここに座った。

いや、尊重しきれていないか。

車で待っていられなかったんだから。


何か飲みたい気分でもないけれど、一応アメリカンコーヒーを頼む。

やることもなく、手持ち無沙汰にダウンのポケットから携帯を出す。

昨日の衝撃にも耐えた携帯。

さすがに無傷ではいられなかった。

黒いボディには引っかき傷のような白い線ができている。

傷を人差し指で摩った。

微かに膨れている部分と凹んでいる部分が感じ取れる。

なんとなく今の佐伯さんの心を触っているようだった。


「お待たせしました」


店員がコーヒーと伝票をテーブルの上に置いて行った。

コーヒーを一口飲む。


へえ、結構いい味だ。

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