モカブラウンの鍵【完結】
「あの」


頭の上から男性の声がした。顔を上げると昨日の男――佐伯さんの元カレ――が立っていた。


「なんですか?」

「ちょっと話しをしたいのですが、ここいいですか」

「どうぞ」と俺が答えると、軽く会釈をしてイスに座る。

「上田啓介と申します」

「はあ、杉山亮太です」


上田の顔を見ると、口の左端に直径1センチくらいのアザができていた。

昨日、俺が殴ったからだ。謝る気はない。


「昨日はすみませんでした」

「あの、俺に謝られても困ります」

「ナオには、あ、佐伯さんにはさっき謝りました」

「そうですか」


上田が昨日の男と同一人物か疑いたくなる。

あの怒りとギラギラした目がない。

今はどこにでもいる、おっとりした人間だ。

どう見ても、浮気や暴力行為をしそうな人間に見えない。


「昨日は酒が入っていて、あんな行動を取ってしまいました。男として最低です」


酒かよ。

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