モカブラウンの鍵【完結】
「あの、なぜ彼女を悲しませるようなことをしたんですか？　なぜ彼女、１人を見つめてあげなかったんですか？」


こんなことを聞くのはおかしいことはわかっている。

ただの好奇心に見られてもしょうがない。

でも、腑に落ちない。


「僕は旅館の息子なんです。将来は後継として旅館で働くことになります。

親としては僕の結婚相手は旅館の経営がわかっている人がいいと考えていて、親が認めた女性が僕のアパートまで直接会いに来てしまうんです。親の差金でしょうね。もちろん、丁重にお断りしていました。

でも、そういう存在が彼女を苦しめていたんですね。僕はなにも気づけなかった。しかも酒の勢いに任せてあんなことまでしてしまった。僕は彼女の側にいることはできません。

それに、彼女には跡取りであることも全て話した上で、さっき、彼女にきっぱり振られましたから」


そういうことか。

その話を聞いても佐伯さんは上田と別れると決めたんだ。

なら、俺が上田に何か言うこともない。


「そうですか」

「最後に杉山さんとも話ができてよかったです。では失礼します。もう彼女にも会いませんから」

上田は体を90度に曲げて、頭を深く下げてからカフェを出て行った。

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