モカブラウンの鍵【完結】
「ねえ、杉山。昨日、彼に『彼氏か?』って聞かれたとき、なんで否定しなかったの?」

「え?」


俺の方を全く見ないで、アロマに視線を向けたまま聞かれた。


「あの状況なら、恋人じゃなくても、第三者が現れただけで、私は助かるから」


第三者か。

佐伯さんと上田は元恋人同士。

なら、あの時の俺はただの職場の後輩で、第三者。

間違ってはいない。

客観的には。

でも俺の心は違うよ。


「どうしてだと思いますか? 1番、善意。2番、作為。3番、好意」


指を1本1本立てながら言う。

3番目は佐伯さんの顔を覗き込んだ。

途端、目を見開いて、真っ赤な顔で俺を見つめてくる。


「変な、冗談言わないで。どうせ1番でしょ」

「どうでしょう。ヒント、2番ではありません。答えはそのうち教えます」

佐伯さんは何事もなかったかのように「これ買おう」と言って、レジへ向かった。


その背中を見つめる。


俺がいないときにも、俺のことを考えてください。

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