モカブラウンの鍵【完結】
外食より手作り
あの元彼との事件から、俺と佐伯さんはこれと言って変化はない。

ただ、1つの例外を除いて。


「杉山、お昼食べよう」

「はい」


佐伯さんはトートバッグを持って会議室に入って行った。

俺がデスクの上を軽く片付けて、立ち上がったとき「すーぎーやーまー」という声が背後から聞こえる。

振り向けば、敏腕営業マンの松下さんが締りのない顔で俺に近づいてきた。

敏腕営業マンの面影はない。


「なんですか。その顔、問題ですよ」

「最近、佐伯と仲いいな」

「別に、普通ですよ」

「週に1回は手作り弁当を一緒に食べてて?」

「お互い1人暮らしだし、食材が余りやすいんで、その対策です。節約、エコです」

「ま、そういうことにしといてやるよ。今度、飲みに行こうな」


また誘導尋問だ。

昼ごはんを食べに行くため、事務所を出る松下さんの後ろ姿を見て、どうしたら逃げられるのかを考えていた。

考えても逃げられる自信は全くない。

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