モカブラウンの鍵【完結】
「今日はノー残業デーだ。杉山、奢ってやる」


松下さんは俺の背中を勢いよく叩いて言った。

その反動で、パソコンの画面に顔を突っ込みそうになった。


「お断りします」


絶対に逃げ切ってみせる。


「今日、佐伯は外回りで直帰。お弁当が食べられなくて残念だったな。だから、代わりに俺が奢ってやる」


予想通りだ。佐伯さんとのことを聞き出したいんだ。

なにを話したって、馬鹿にされるのが目に見えている。


「せっかく早く終わったんですから、彼女とデートでもすればいいじゃないですか」

「うん。俺もそうしたい。でも、彼女は仕事で出張だ」


気がつけば、俺のカバンを持って、勝手にパソコンの電源を落としている。


「というわけで、行くぞ」



俺の決意は実らなかった。


結局、松下さんと飲みに行くことになった。


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