モカブラウンの鍵【完結】
「まあ、確かに、笑顔が多くなったよな。去年の夏頃って、様子がおかしかったし。無理している感じがあった。佐伯って、仕事ではポーカーフェイスができるのに、ちょっとしたとき表情に出るんだよな」

「よくわかってるんですね」


深い意味はないのに嫌味のような言い方をしてしまった。

バツが悪くて、刺身の盛り合わせとイカゲソを頼んで誤魔化した。


「杉山、俺に嫉妬しなくていいぞ。営業マンは相手の感情を表情から読み取るのも仕事だから。それに俺は彼女一筋なんで」

「それって、自慢にしか聞こえませんよ」

松下さんは「羨ましいだろう」と言って、運ばれてきたイカゲソを食べ始める。


「個人的な意見、杉山と佐伯はいい組み合わせだと思うぞ」


姉ちゃんといい、松下さんといい、応援されているな、俺。

応援されたって、今の状況から進展させるタイミングが見つからない。

間違ったタイミングで気持ちを伝えてしまえば、仕事に支障がでるかもしれない。


それに、昼を一緒に食べたり、ときどき、飲みに行ったりする、今の関係が心地いいのも事実なんだよな。

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