モカブラウンの鍵【完結】
あんなことがあってから4カ月ぐらいの時間は流れた。

俺ですら、あの時のことを思い出してしまうことがある。

佐伯さんは、まだ苦しい思いになることがあるんじゃないか。


残り少なくなった、生ぬるいビールを飲み干す。

気が抜けて苦味が増していた。


「なに浮かない顔しるんだよ」

「なんでもないですよ」

「これは杉山の問題だから好きにすればいいけどさ。うかうかしていると、ひょいと現れた人間に連れていかれちまうぞ」


ひょいと現れた人間に連れていかれちまうぞ、か。

そうかもな。

恋愛なんて、いつどこで生まれるかなんてわからない。

待ちすぎるのも問題か。


その後は佐伯さんの話は出てこなかった。


そして、いつも通り、目の前にあるつまみがなくなるまで仕事の話をしていた。

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