モカブラウンの鍵【完結】
「杉山、見すぎ」と松下さんに睨まれた。

「あ、すみません」

「見ての通り、俺たち結婚するんだ」

「ええ!」


小料理屋でそこそこ大きな声を出してしまい、近くに座っている客に睨まれた。


「もう、涼太」と奈央美に肘で突っつかれる。

「すみません。あの、おめでとうございます」と俺が言ったあと

「松下さん、野沢さん、おめでとうございます」と奈央美も続いた。

「あのこのことを報告するために、俺たちを食事に誘ったんですか?」

「ああ」

松下さんは俺たちから視線を逸らし、ぶっきらぼうに言った。


「でも、なんで私たちに?」

奈央美がそう聞いたとき、俺も同じことを思った。

松下さんは仕事の面でもプライベートの面でも、いろいろと気遣ってくれている。

だからと言って、わざわざ、こういう場を作って、結婚報告をしなくても、事務所で話せば済むこと。


「私が頼んだの」と野沢さんが答えた。

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