モカブラウンの鍵【完結】
「涼太、どうしたの? 顔が潰れてるよ」

「なんだよ、潰れてるって」と言いつつ、不機嫌な顔をして顔のパーツが中央に寄っていたんだろうと思った。

「だって、眉間に皺を寄せて、目を細めて、口は真一文字。全体的にペタッとしてたから」

「うるさいよ」と言って、奈央美の鼻を摘んでやる。

ぬるくなったコーヒーを入れ替えるためにキッチンに入った。

コーヒーを入れながら、溜息を吐く。



別に、奈央美がよそ見としないのはわかっているし、浮気をしないのもよくわかっている。

でも、不安なんだよな。

大学の先輩ってことは、30前後か。

姉ちゃんが「年齢で引け目感じるんじゃないわよ」と言っていた意味がよくわかった。

奈央美に対して、年齢のことは気にならない。

でも、奈央美の近くに現れる男の年齢に引け目を感じる。

こればかりは、どうしようもないのにな。


「涼太、どうかした」

奈央美がキッチンの方を覗きに来た。

「なんで? どうもしないよ」

「そう、時間掛かってるみたいだから」

「そうかな? コーヒー入れ替えたから行こう」


なにも起きてないのに心配しても仕方がないよな。

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