モカブラウンの鍵【完結】
モカブラウンの告白
「そうですか。わかりました。検討させていただきます」

賀川社長は応接室を去っていった。

ドアが閉まる音を聞いて、松下さんと2人、下げていた頭を上げる。

同時に深い溜息を吐いた。


『シルバー・ラボ』に何回、足を運んでいるんだろう。

こっちの熱意や利益の話をしても、ただ黙って聞く。

最後に「そうですか。わかりました。検討させていただきます」と言うだけ。

この繰り返しだ。


何故だろう。何度も諦めそうになる。

仕事だから、ノブの夢もかかっているから、そんなことできない。


事務所へ帰る途中、松下さんが重い口を開けた。

「杉山、言いにくいが別の調理器具メーカーも視野に入れておいてくれ」

「でも!」

「そろそろメーカーと契約ができなければ、ペンション着工が遅れるだろ」


それはわかっている。

ペンションの着工が遅れれば、それに対応するもろもろの費用も出てくる。

そのうえペンションオープン日だって遅くれることになってしまう。


「わかりました。でも俺はギリギリまで諦めませんから」

「ああ、それは俺も一緒だ」


赤い夕日から放つ赤い光を浴びて、絶対に契約してみせると自分に約束した。

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