モカブラウンの鍵【完結】
奈央美にどうやって話を切り出そうかと考えているうちに、どんどん時間が過ぎてゆく。

事務所から駅へ向う途中、奈央美と中野さんが並んで歩いているのが目に入った。

その瞬間、足が無意識に奈央美の方へ向かう。

普通のスピードで動いていた足が早歩きになり、終いには小走りになる。



「奈央美」

数メートル先にいる奈央美の背中に向かって声をかけた。

「涼太」

振り向いた奈央美が俺を見て、驚いた顔をする。



「杉山さん、奇遇ですね。これから2人で食事行くのですが、杉山さんもどうですか?」

中野さんは涼しい顔で言っていた。

これが俺への挑発だというのがよくわかった。


「いえ。お仕事の話もあるでしょうから、僕は遠慮させていただきます」

そして奈央美の目を見て、言いたいことを言う。


「奈央美、12月25日、一緒に桜を見た公園に来て欲しい。仕事が終わったあとでいい。何時でもいいから」


これが俺の挑発。


中野さんに会釈をして、そこ場から離れた。

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