モカブラウンの鍵【完結】
松下さんは必ず俺を飲みに誘うときは、小料理『道草』に連れて行く。


「あら、松下さん、いらっしゃい。今日は杉山さんも一緒なのね」


ここの女将さんは40代後半くらいで、いつも品のいい着物を着ている。

そして季節感を意識したものが多い。春は薄い桜色やオレンジ。

夏はモスグリーンや水色。秋は茶色や柿色。冬は濃紺や青。

今日は暖かみのある柿色。9月だからか。


「女将さん、ビール2つ。それと枝豆」


カウンター席の椅子に座りながら松下さんが注文をする。

「ビールと枝豆ですね」と言って、女将さんは暖簾を潜って厨房の方へ消えていった。


「ほれ、ビールと枝豆が来るまでに頼みたいもの選べば」


松下さんがメニューを手渡す。

俺はお言葉に甘えて、食べたいもの選ぶことにした。

どうせ、俺の恋愛遍歴を根掘り葉掘り聞き出すんだろ。

その対価だ。


「お待たせしました」


女将さんはビールと枝豆を置くと、カウンターの中へ入りグラスを磨き始めた。


「さて、軽く乾杯するか」

「はい」


ジョッキを持ち上げ、コツっと鈍い音を鳴らしてからビールに口を付ける。

程よい疲労感がある体には、まるで栄養ドリンクを飲んだかのように体が生き返った。

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