モカブラウンの鍵【完結】
厚揚げを一口サイズに切り、口の中に放り込む。

豆腐の水分がじゅわっと広がり、そこには香ばしさと生姜の爽やかな辛味があった。


「女将さん、いつ食べても厚揚げ、美味いです。俺、ここ厚揚げ以上に美味いの食べたことないです」

「あら、うれしいこと言ってくれるわね」

「家でも厚揚げ作って見るんですけど、こうはならないんですよ。ネットとかでコツとか実践してみるんですけど、やっぱり何か違うんですよ」


松下さんは俺と女将さんの会話を聞いて、なぜか唖然とした顔でこっちを見ていた。

イケメンは唖然としてもかっこいいんだな。

俺が同じ顔をしても、ただの間抜けな顔にしかならない。


「杉山、家で厚揚げ作るのか?」

「はい。一度も成功してませんけど」

「お前、25だよな」

「はい。それが何か?」


松下さんはビールの御代わりを頼むと、残り1つになった厚揚げを横取りした。


「ああ! 何、食べてるんですか」

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