モカブラウンの鍵【完結】
「自炊もいいけど、ちょっとは恋愛もしろ」


話の流れが嫌な方向になった。


「別に恋愛を避けてるわけではないです。ただ、今は仕事が楽しんですよ」

「それは良いことだ。男は仕事をしている時こそ一番生き生きすべきだ。

でも、恋愛も大事だ。

俺たちは人が入る箱を作っている。住宅や商業施設、公的な施設。

そういう所には、いろいろな関係性をもった人間が来る。家族、恋人、友人、不倫、仕事仲間。

そういった人間が居心地のいい箱をつくるのが俺たちの目標で義務だ。

不倫をしろとは言わない。てか、それは駄目だ。

いいか。お前には家族があって、友人があって、仕事仲間がいる。あと足りないのは何だ?」


松下さんが熱く語っている間に、新しいビールが置かれた。

ビールを3分の1ぐらいを一気に飲む。

その動作を眺めた。

そして仕方なく答える。


「恋人ですよ」

「そうだ。杉山さ、昔の女で結婚迫ってきたのがいたんだろ?」


あの時の会話をしっかり覚えてるよ、この人。

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