モカブラウンの鍵【完結】
俺は松下さんが乗せた厚揚げを食べながら思った。

いつもの松下さんらしくない。

普段は恋愛をしろとか絶対に言わない。

別に嫌な感じはしないけど、違和感は感じる。

何なんだ、いい相手って?


謎めいた松下さんに奢ってもらうのは危険な気がしたけれど、結局は奢ってもらった。



松下さんが会計を済ませている間に外に出ようと、引き戸に手を伸ばした。

ここに初めて来たとき、入るのに勇気要ったんだよな。

俺が緊張するから、松下さんに「先に入ってください。常連さんが先に入った方が女将さんも喜びます」って、言ったな。

でも、引き戸に手を掛けたら気合が入ったんだよな。

うん?

「そっか。そういうのも有りだよな」


会計を澄ました松下さんが、店の出入り口の前で固まっている俺に「何してるんだよ?」と声を掛ける。


「松下さん、今日はありがとうございました。それとごちそうさまでした」


バカみたいに元気よく言う俺を見て、こいつ大丈夫かというような顔の松下さんが「ああ、どういたしまして」と言った。

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