モカブラウンの鍵【完結】
佐伯さんは嘘つきだ!


「杉山、もう1軒!」

「ちょっと、ちゃんと歩いてください」


駅へ向かう道。

佐伯さんは千鳥足で1人じゃ歩けない。

俺は2人分のカバンを持ち、その腕で佐伯さんの腰を支える。

自分の肩に佐伯さんの右腕を回し、右手で手首を掴んでいた。

いつになったら駅に着くんだよ。

しっかり歩いてくれ。


「あんたは、りっぷぁだ」

「そうですか」


呂律回ってないし。2カ月前の悪夢再びかよ。


「はあ」

「杉山、今、てめいき、ついたわよね。年下のぐせに」


テメイキって、何だよ。

ヒールを履いている足は安定感がない。

その上、酔っ払っている。俺も歩きにくい。

いろいろな方向へ足が動くし、時々、俺の足を踏む。

小指は勘弁して。

そんな願いも虚しく、俺の足の小指に佐伯さんのヒールがヒットした。


「痛ってぇ!」

「杉山どこ痛いの? どこ?」

「大丈夫です」

「いたいの、いたいの、とんでいけ」


えっ。


「いちゃく、なくなった?」



今のキスだよな。頬に柔らかい感触が。あれは唇、だよな。

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