モカブラウンの鍵【完結】
「佐伯さん、大丈夫ですか?」


体を抱き起こすと、こっちを見て小さく頷く。


「ベッドに運びますね。抱き上げてもいいですか」


佐伯さんは返事をする代わりに、俺の首に腕を回してきた。

脇の下と膝の裏に腕を入れて、ゆっくり立ち上がった。

ワンルームの部屋はパーティションで簡易のベッドルームができている。

足で毛布をはぎ、佐伯さんを寝かせた。

羽織っているコートを脱がせ、近くにある椅子の背もたれにそれをかける。


「ちょっと待ってください。水、持ってきますね」
 

を離そうとした時、ネクタイを掴まれた。

右手でガッチリと。

俺はベッドに両肘を付き、片足が中途半端にベッドに乗っていた。


「苦しいです」


軽く首がしまり、息苦しい。


「私、幸せになれる?」


「えっ?」


涙目で「私、幸せになれる?」と、もう一度聞いてきた。

ネクタイを掴む手をそっと包む。

佐伯さんはネクタイから手を離した。

代わりに俺の手を掴む。


「なれますよ。幸せに」


何の根拠もないけど、自信はあった。

だって、何かに傷付いて、それでも頑張っているんだ。

幸せなるべき人だよ、佐伯さんは。
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