モカブラウンの鍵【完結】
「いや! 止めて、離して!」
「止めろ! お前、何やってんだよ!」
目の前の光景を見て、怒りが体を駆け巡る。
ドアを開けると、リビングに続くキッチンとバスルームの間にある廊下で、男が佐伯さんを押し倒していた。
その男を佐伯さんから引き剥がし、左頬を力任せに殴る。
男はバランスを崩し、数歩後ろに下がりながらよろけ、玄関にしゃがみ込むように膝が崩れた。
佐伯さんを見ると、ジーンズはボタン外され、ファスナーも下ろされている。
カーディガンは引き裂かれたように胸元が開き、ボタンが床に転がっていた。
顔を見れば、左頬が薄く赤くなっている。
多分、あの男に平手打ちされたんだろう。
恐怖で体を縮め、震える佐伯さんを見て、泣きそうなる。
コートを脱ぎ、佐伯さんの体を隠すようにコートで包む。
そして、落ち着かせるようにゆっくり背中や肩をさする。
「す、ぎっやま」
「大丈夫です。俺がいますから」
俺の胸に顔を埋め、佐伯さんは声を押し殺しながら泣いていた。