モカブラウンの鍵【完結】
「お前、ナオの新しい彼氏?」


玄関の方を見ると、痛みが治まったみたいで、男はゆっくり立ち上がった。

さっき殴ったとき、口を切ったみたいで、男の口の左端から細い線のように血が微量流れている。

それを右手の親指で拭っていた。


初めて男の顔をまじまじ見る。

そいつはさっきエレベータでぶつかった男だった。


「だったら何だよ」


佐伯さんを抱きしめたまま、男を見て言う。


「俺さ、3カ月前、急にナオに振られたんだ。お前が原因か」


男は恨みや憎しみを含んだ目で睨んでいる。

自分も応戦するように睨み返した。


「ち、がう」


ずっと顔を埋めて泣いていた佐伯さんが顔を上げ、声を震わせながら話し出した。


「違うわ。彼は関係ない。啓介と別れた理由は、啓介自身がよくわかってるんじゃない?」

「何だよ、それ」

< 82 / 300 >

この作品をシェア

pagetop