モカブラウンの鍵【完結】
「他にも女がいるんでしょ。いつも長い髪が落ちてた。洗面所のゴミ箱には使い終わったコットンが捨ててあった。シンクには口紅の付いたコップがよくあった。

気づいてないと思った?

付き合いだして3カ月くらいで、他に女がいるなと思った。その時、すぐに別れればよかった。あの時期、仕事が忙しくて、そういうことから目を逸らすのが簡単だったの。

だからズルズル1年も付き合ってた。こんな関係よくないって思ったから別れた。別れて正解ね。こんなことするような男」


俺の肩越しに男の顔を見ながら佐伯さんは言った。

男は何も言わず呆然と突っ立っていた。

男の感じだと、バレていないと思っていたらしい。


「もう帰れよ。振られた原因もわかっただろ。二度とここには来るな。二度と彼女の前にも現れるな。それを約束してくれれば、警察には言わないでおいてやる」


何かを言おうと口を開いた男。

結局何も言わず、男は部屋を出て行った。


ドアの閉まる音を聞いて、佐伯さんの体から力が抜ける。

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