モカブラウンの鍵【完結】
「佐伯さん、もう大丈夫ですよ。大丈夫ですから」

「すぎ、やま。うっ、こわ、かった」と言って、俺の体にしがみついた。

そのまま、子供のように声をあげて泣き出した。


泣きたいだけ、泣けばいい。それで少しでも落ち着けるなら。

俺はずっと佐伯さんの背中をさすったり、軽く叩いたりしていた。

何分そうしていたかわからないくらい時間が経つと、佐伯さんの涙も落ち着いてきた。


「大丈夫ですか?」

「うん。ありがとう。本当にありがとう」

「いいんですよ。シャワー浴びて、着替えた方がいいんじゃないですか?」

「うん。そうする。杉山、もう少し一緒にいてくれる」


あんなことが起きて、不安な佐伯さんを1人にすることなんてできない。


「います。勝手に帰ったりしませんから。ゆっくりシャワー浴びてきてください」

「ごめんね」

「佐伯さんは謝ることなんて1つもしてないでしょ」


佐伯さんに肩を貸し、立ち上がらせる。

少しふらふらしているけれど、自分で歩いて着替えを持ってきた。


「俺、リビングにいるんで、何かあったら呼んでください」

「うん。飲み物とか飲みたければ、勝手に冷蔵庫開けていいから」


こんな時まで、人のこと気にしなくていいのに。


「はい。俺のことは気にしなくていいですから」

「うん」


佐伯さんはバスルームに入って行った。

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