モカブラウンの鍵【完結】
「あの、今夜、ここに1人で大丈夫ですか?」

佐伯さんは視線を手元に落とし、小さな声で「平気だよ」と答えた。

「嘘ですね、それ。嘘っていうより、強がりかな」

「な、大丈夫よ。あれだけ言えば、彼だってもう来ないだろうし」

「そういう問題じゃないでしょ。佐伯さんの気持ちでしょ。寝る前とか、帰ってきたときとか、怖くなったりしませんか?」

「それは」

「でしょ。うちに泊まりませんか? 今日、姉も泊まるんで、心配ありませんよ」


手元に向けていた視線を、少し上げて、俺の胸あたりを見ている。


「そんなに迷惑かけられないよ」

「迷惑だったら、初めからこんなこと言いませんよ。それに俺が心配なんです。せめて、俺の家に泊まることに遠慮しているなら、お兄さんの家に泊まるか、ホテルに泊まるなりしてください。どうしますか?」

「その兄は深夜も仕事をしているし、最近、彼女というか婚約者がいるから、兄の家に行くのは無理。本音を言うと、1人は怖いかも」

「じゃあ、決まりです。俺の家に泊まってください。いいですね?」

「はい」

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