モカブラウンの鍵【完結】
「杉山」


洗面所から出ると、トートバッグを肩に掛けた佐伯さんがリビングに立っていた。


「準備できました?」

「うん。マグカップとか片付けてくれたんだ。ありがとう」

「はい。ハンドタオルはランドリーボックスの中に入れておきました」


佐伯さんは軽く頷いた。

ジャケットとコートを羽織り、佐伯さんの肩からトートバッグを取る。


「いいよ。これくらい自分で持てるし」

「持ちますよ。着替えとかが入っているなら、それなりの重さでしょ。じゃあ、行きましょうか。忘れ物や戸締り大丈夫ですか?」

「大丈夫」


佐伯さんの歩くスピードに合わせながら、俺の家へ向かう。

途中「天気がいいね」や「昼ごはんは何にするか」を話しながら。

隣を歩くと、時々、手の甲と手の甲が触れる。

恋人同士なら、手を繋げるのに。

異性の友だちと意味なく手を繋げるって話も聞いたことがあるな。

でも、俺は恋人でもなければ、友だちでもない。

会社の後輩か。

佐伯さんの性格だと、異性の友だちと手を繋ぐことはしないと思うけど。

繋ぐことが許されない俺の左手は、歩くリズムに合わせて、前後に軽く動くしかなかった。

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