シナモンの香りと優しい貴方【TABOO】
シナモンの香りと優しい貴方
カフェの片隅、奥まった角の席に私は座っている。
目の前には湯気も上がらなくなったカフェオレが一つ、ボヤけて曇る私の目に映る。
ぽたり、また新しい水たまりが出来た。
「……志穂(しほ)?」
声を掛けられてゆっくり顔を上げると、懐かしい顔が見えた。
「雅人(まさと)……」
雅人は私の元カレ。
1年前に別れた、大好きだった人。
「久しぶり……って状況じゃないな。どうした?」
彼は私の前の席に座りながら言った。
私は力なく首を横に振る。最近出来た彼氏とつまらない事でケンカした話なんて聞かせたくない。
「ちょっと待ってて」
すると、少し席を離れた雅人が新しいカップを持って帰ってきた。
「話したくないならいいから、それ飲めよ」
カップから立ち上るこの香り、シナモンだ。
雅人と付き合っていた時に私が気に入ってよく飲んでいたシナモン入りのカプチーノ。
まだ覚えていてくれたんだね。
吸い込まれる様にそれを手にした私は、ゆっくりとそれを口に運んだ。
「……美味しい」
自然に笑みがこぼれた。
「良かった」
雅人の包み込む様な笑顔に、私の心があの頃に戻ってゆく。
彼を大好きだったあの頃に。
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