魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ああなんてお美しい…!その瞳、その表情!やはりあなたは最高だ!」


「気持ちわりぃこと言うな蠅野郎が。なんか勘違いしてるみてえだから言っとくけど俺はもともと魔界なんか興味ねえっつーの。魔界の王になりてえなら勝手になりゃいいじゃねえかよ」


ゼブルはうっとりした表情でコハクを見つめながら何度も首を振ってため息をついた。


「あなたが魔界に乗り込んできてから俺の野望など吹き飛びましたよ。俺の野望はあなたのお傍にお仕えして侍ること。あなたが存在する限り誰しも魔界の王にはなれないのです。なぜならば、あなたが最強だから」


「ふん、俺が最強なのはわかるけど興味ねえつってんだろが。それと…最近ずっとうろちょろしてたのはお前だな?チビには今までなんとかだましだましで隠してきたけど…お前…マジでふざけんなよ」


コハクがゆっくりとした足取りでゼブルに近付く。

硬直したように動かないゼブルは、コハクに襟元を締め上げられてぞくっとした表情を浮かべて思いきりコハクを引かせた。


「ああ、あなたに触ってもらえるなんて…!」


「お前マジでヘンタイだなおい!とにかく今すぐ帰れ。用件は済んだよな?俺は魔界には戻らねえし王になるつもりもねえ。期待させて悪かったな」


「そうですね、用件は済んだかもしれませんが俺も久々にこちらの世界へ来たので滞在させて頂きますよ。断れば…手が滑ってあなたの大切なものを傷つけてしまうかも」


赤い瞳が鮮やかに光った。

魔力が瞳の中で渦巻き、ゼブルはその光に見惚れながら襟元を締め上げているコハクの手にそっと触れてまたうっとり。


「こちらに滞在させて頂いてもいいですよね?大丈夫ですよ、私の機嫌を損ねない限りは力など振るいませんよ」


「…デスと俺がお前を常に見張っているからな。まず人間に手を出すな。食うな。これだけは約束しろ」


「仕方ありませんね、あなたのお傍に居られるのならば我慢いたしましょう。まあよく見ればあなたを夢中にさせているあの女も人の中では綺麗な部類だ。話す程度なら構いませんね?」


そう言いながら2人の会話と雰囲気に圧倒されていたアーシェをちらりと目の端で見てまた凍り付かせたゼブルは、肩で笑ってコハクの手の甲を撫でた。


「美しいものは大好きだ。あなたが1番大好物ですが」


「どヘンタイが。俺とチビに触るんじゃねえぞ」


警戒を解いてはならない。
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