魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクが出かけた後部屋に入ったデスの手には…死神の鎌が光っていた。

これは人の魂を刈り取るものだが武器としても有効だ。

…歯向かってくるものには刃を振り下ろしてきたが…ゼブルは昔からやたらとコハクに執着していた。


いきなり現れた人間の男が魔界を牛耳り、そして何も奪わず何にも興味を示さず、暴れるだけ暴れて魔界を去って行った――

その後人間に倒されて、どこかの王女の影に取り憑いているという噂が魔界に広まっていたことも、知っていた。

もちろんゼブルの耳にもその噂は届いていただろうし、コハクを魔界の王として立たせた後臣下として侍って崇拝しようと目論んでやって来たゼブルの目には、現在の穏やかなコハクは…見るも絶えないものとして映っているのだろう。


「………俺…今の…魔王の方が…いい……」


出会った当初は戦ったこともあったが――対等に渡り合ったせいか、何故か酒場に引っ張り込まれて酒を飲み交わし、酒に酔わない自分を気に入って家に上り込んで来たり、とにかく傍若無人だったが不思議と憎めず何故か腐れ縁になったこと…


こんなに多くの時間を共に共有した者など今まで居なかったデスにとっては、コハクは大切な友人で、そしてラスは…


「………」


コハクの結界に包まれたラスはすやすやと眠っていた。

はじめてゼブルを見た時恐怖で身体ががたがた震えている姿を目にして、沸々と怒りが込み上げてきた感情に自分自身が驚いてしまって、胸を押さえずにはいられなかったこと…


「……殺して…やる……」


殺意を抱いたこともない。

憎悪を感じたこともない。


この感情を芽生えさせたのは、一体誰だ?


「う、ん……」


ラスが寝返りを打って横向きになり、綺麗な金の髪が散らばって表情を隠した。

デスは手を伸ばしてラスの顔が見えるように髪を払ってやると、骨だけの指を動かして、見つめた。


「………守る…」


コハクと一緒に。


あたたかくて優しくて、知らないものを沢山くれたコハクとラスを、守る。


それが自分の生きる道。
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